■『エネフレンド』2001年5月1日号
= CSの時代=
「入居者はお客様」との発想のもと、サービスアップに努める横浜市の介護福祉施設。
充実した施設とていねいな応対で注目を集める
横浜市栄区の閑静な高台の一角に、地下1階・地上3階建ての真新しい施設が広がっている。昨年4月にオープンした特別
養護老人ホーム「クロスハート栄・横浜」である。
ここは痴呆症や障害を抱える高齢者を受け入れる施設。いわば最も困難な介護の最前線といえる場所だが、館内は清潔で明るく、重苦しい空気は一切ない。入居者の部屋もゆったりとしたつくり。理容室やフットケアの設備まで用意されている。
そんな設備面の充実ぶりからも入居者への心配りが感じられるが、同ホームの姿勢がよく表れているのは、入居者に対するスタッフの姿勢だろう。靴が脱げかけた入居者への対応を例にとると、“○○さま、お靴が脱げかけていますので、直させていただいてよろしいですか?”といった具合。こうした接遇応対について片山施設長は当然のことと語る。
「入居者の方々は人生の大先輩ですし、老人ホームも一種のサービス業である以上、お客様である入居者に対し、ていねいな呼びかけをするのは当たり前ですよね。うちの応対ぶりが注目されるのは、むしろ従来の福祉業界にそうした意識が足りなかったからだと思います」
昨年4月の介護保険スタートのより、利用者が施設や事業者を選べるようになり、福祉業界も新たな段階を迎えた。施設数がまだ少ないことから、実際には自由な選択が可能なところまで至っていないが、近く競合時代の到来が予想される。そんな中、いち早くサービス重視の方針を打ち出した同ホームに注目が集まっている。
ちなみに、サービスを充実させるために、あえて2万円の保険対象外の負担金を設定しているが、それでも入居者数は定員の120名に到達。開設から1年ながら、現在、入居待ちは420名にも上っているという。
“終の住処(ついのすみか)”をよりよいものにするサービスのしくみ
さて、そんな同ホームの運営コンセプトは、“楽しく、きれいに、いつまでも”というもの。“楽しく”は、入居者に気晴らしを提供すること。“きれいに”は入居者の身のまわりや環境、スタッフの服装などを清潔に保つこと。そして“いつまでも”は入居者自身がずっと滞在したいと思える環境づくりだという。
「うちの入居者の方々の平均年齢は84歳で、ここが終の住処となるケースが多いんですね。そこで、心穏やかに人生の終末期を過ごしてもらえる場づくりを目指し、運営コンセプトとしているんです」
そして、これらのコンセプトを実現していく上で柱となっているのが、サービス品質管理のしくみである。以下にポイントとなる取り組みについてご紹介しよう。
●業務マニュアルの整備
開設時から始めた取り組みで、入居者へのケアや環境整備、リスク対応等をまとめたマニュアルを11種類作成。安全面
やサービスの基本的な遵守事項が明示されており、日々の業務を通じて得たアイデアやノウハウが改訂時に追加される。バラつきのない安定的なサービス体制づくりが目的。
●ケアノートの作成
スタッフが介護状況を記録したり、付添いの家族がメッセージを書き込む「ケアノート」が館内の定位
置に置かれている。これは、入居者一人つき一冊が用意されており、各スタッフに全入居者のノートに毎日目を通
すことを義務づけている。サービス活動を記録し、スタッフ間で検証、共有化するのが狙い。
●ISOの認証取得
今年2月、東日本の特養施設としては初めて国際標準化機構の品質管理規格・ISO9001の認証を取得。福祉サービスは形がなく、重度の痴呆患者者などを対象にする場合、どの程度のメリットにつながるかを実証するのが難しいため、入居者のご家族の方などにサービス水準を認知してもらい、安心してもらうことを目的に取得したという。前途のマニュアル整備やケアノート作成も認証取得に関連しており、今後はISOの指標を実行し、チェックしていくことで、サービスアップにつなげていく予定とのこと。
働きやすい環境づくりに向け細やかな心配りも
さらにもう1点、同ホームのスタッフ体制にもふれておこう。約110名のスタッフの平均年齢は32歳。やや若い気がするが、それもそのはず、
「ほぼ全員が介護業務の未経験者ぞろいです。キャリアよりも、人間性や情熱、入居者を楽しませることができる特技を持っていることなどを重視して採用した結果
です」
面白いのが、こうした採用方法によって、美容師やマッサージ師、声楽家などの専門的な技能をもつスタッフが加わっている点だ。彼らの特技は前途の理容室をはじめ、さまざまな催しやリハビリ・プログラムなどにも生かされ、サービスの幅を広げるのに役立っている。
また、スタッフが働きやすい環境づくりも進んでいる。たとえば、洗濯や清掃などの業務は業者に委託しているが、これは衛生面
を一定のレベルい保ちつつ、スタッフの負担を減らすためだという。
「こうした業務は、他の福祉施設ではボランティアに頼ることが多いのですが、うちはサービス品質を維持するためにボランティアの職員は受入れていません。でも、正規のスタッフにやらせると、ケア業務に支障が出ます。そのため、外部の業者さんに委託しているんです」
他にも無理のない勤務ローテーションや介助機器の導入などで負担減を図るなど、きめ細かい目配りが。
そうしたバックアップ体制もあってか、スタッフの表情は穏やかで明るい。入居者への対応もていねいなだけでなく、優しくて親切。しかも、本人もイキイキと楽しそうだ。
片山施設長は、顔をほころばせる。「経験が足りない分、技術面
での課題はまだまだありますが、みんな素直でやさしくて、まっすぐなタイプばかり。入居者にとってよりよいサービスを提供しようと一生懸命です。親バカみたいですけど、うちのスタッフは日本一だと思いますね(笑)」
そして、こうしたスタッフのモチベーションの維持にも、CS取り組みが役立っているのだという。
「入居者を大事にする施設で働いていることが、プライドになっている面
がありますね。そして、それが意欲につながっていると思います。今後も彼らの情熱をキープしながら、技術面
を高めたいと考えています」
質の高いサービス提供に向けて施設運営を考え、着実に基盤整備を進める同ホームのCS取り組み事例。高齢者介護の現場の状況がうかがえるとともに、サービス提供のしくみづくり、それを支える運営面
での配慮など、参考となる点は多そうだ。